金属プレス加工における人手不足の核心は「段取り・品質管理・書類作成」という言語化業務にあり、AIを使えば熟練工一人分の作業量を若手二人でカバーできる体制が整う。
金属プレス加工という仕事は、外から見れば「機械で金属を打ち抜くだけ」に映るかもしれない。しかし現場に入ると話は全く違う。金型の段取り、プレス条件の微調整、バリ・割れ・寸法不良との日常的な格闘——。そのノウハウは職人の体と頭の中にしか存在しないケースが多く、それが人手不足を深刻にしている。
宿泊業を営む私は「現場のノウハウを言語化する」ことにAIが最も価値を発揮すると実感している。この記事では、求人票という「困りごとの通知書」を読み解きながら、金属プレス加工の現場でAIが何をできるかを具体的に示したい。
金属プレス加工の現場と、求人票が物語る人手不足
求人サイトで「金属プレス加工」「プレス工」と検索すると、求人票に共通する文言がある。「金型段取り経験者歓迎」「品質管理・自主検査ができる方」「プレス機の基本操作から覚えられる方(未経験可)」「製造業経験者は優遇」——。
特徴的なのは「段取りができる人」への強い需要だ。段取りとは、金型交換・プレス条件設定・試し打ちの一連の準備作業であり、経験がないと一工程に何時間もかかる。段取りが遅い現場は生産効率が直接落ちる。もう一つは「品質管理を自分でできる」人材へのニーズ。小規模プレス工場では品質担当を別に設けられないため、作業者自身が自主検査まで担う必要がある。
待遇面では「週払い可」「日払い対応」という表記が増えており、人材確保のために待遇を柔軟にせざるを得ない実態が透けて見える。外国人技能実習生・特定技能の受け入れ実績を前面に出す求人も増えており、国内人材だけでは回らない現場が増えていることを示している。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:金型段取りのノウハウが属人化している
「この金型はどのプレス機に載せて、荷重は何トンで、クリアランスは何ミリが正解か」——この情報が職人の頭の中だけにある。退職・長期離脱が起きた瞬間に段取りが止まる。若手が育つ前にベテランが去る構図が多くの工場で起きている。
困りごと②:不良発生時の原因分析が経験頼みになっている
バリの発生、割れ、寸法外れ。プレス加工の不良原因は金型摩耗・材料ロット差・プレス条件のわずかなズレが複合して起きる。「なぜ不良が出たか」を若手が判断できず、毎回ベテランを呼ぶループが続いている。
困りごと③:作業記録・品質書類の作成に時間がかかる
自動車部品や電子部品の下請け工場では、顧客から「トレーサビリティ書類」「作業記録」の提出を求められる。この書類作成が生産とは別の工数として発生し、現場リーダー一人に集中する。「書類仕事ができる製造業経験者」という求人の文言は、まさにこの悩みを示している。
その困りごと、AIならこうなる
困りごと①:段取りノウハウをAIとの対話で文書化する
ベテランが「この金型の段取りはこうする」と口で説明したことをAIに整理させる。音声入力→テキスト変換→AIで清書という流れで、20分の口頭説明が一枚の段取り標準書になる。
【プロンプト例:段取り手順書の生成】
以下の口頭説明を、若手作業者向けの「金型段取り手順書」として整理してください。
箇条書き形式で、ステップ番号を振り、注意点は★マークで強調してください。
【口頭説明の内容】
この金型はうちで一番デリケートなやつで、まず上型と下型のパーティングラインをきれいに拭いてから載せる。クリアランスは0.12mmでゲージで必ず確認。プレス荷重は最初80トンから始めて試し打ち3枚見てバリが出るようなら2トンずつ下げる。スクラップが詰まりやすいので5ショットごとにエアブローすること。材料はSPCC t1.0mmで端面のバリに注意して手袋必着。
【プロンプト例:段取り条件記録フォーマットの生成】
金属プレス加工の段取り記録票のフォーマットを作成してください。
記録する項目として含めてほしいもの:
- 日付・担当者・製品品番・金型番号
- 使用プレス機・設定荷重
- クリアランス測定値
- 試し打ち結果(良否・修正内容)
- 特記事項
Excelに貼り付けやすいよう、表形式で出力してください。
困りごと②:不良原因の仮説をAIと一緒に考える
不良が出たとき「この状況からどんな原因が考えられるか」をAIに質問する。AIは考えられる原因を網羅的に列挙し、確認順序を提案してくれる。若手がベテランを呼ぶ前に「仮説を持って聞きに行ける」状態をつくる。
【プロンプト例:プレス不良の原因分析支援】
金属プレス加工でバリが突然増加しました。考えられる原因と確認手順を教えてください。
状況:
- 製品:SPCC t0.8mm の打ち抜き品(φ30mm丸穴×8箇所)
- 昨日まで正常品を生産していた
- 本日朝から外周バリが全数で0.3mm超発生
- 金型・プレス機・材料ロットは昨日と同じ
- 夜間に金型を一度外してプレス機のメンテをした
原因候補を優先度順に挙げ、それぞれの確認方法を簡潔に説明してください。
困りごと③:品質書類をAIでテンプレート化する
顧客提出用の品質記録書を毎回ゼロから作るのをやめる。AIに一度「このフォーマットを作ってくれ」と依頼し、そのテンプレートを繰り返し使う。
導入ステップと費用感
ステップ1(月数千円〜):現場リーダーがAIを使い始める
段取り手順書と不良原因分析の2用途に絞って試す。スマホから音声入力→AI整理の流れだけでも十分な価値が出る。
ステップ2(月1〜2万円程度):プロンプトを会社の財産にする
効果があったプロンプトをNotionやGoogleドキュメントで管理し、複数人で共有する。「AIに聞く前の自社チェックリスト」も整備すると精度が上がる。
ステップ3(補助金活用):デジタル段取り管理システムへ発展
生産管理・品質管理システムとAIを連携させる段階では、デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)の活用を検討したい。
よくある質問
Q. 金型や材料の専門的な話をAIは理解できるのか?
プレス加工に関する基礎知識はAIに十分あります。「バリとはなにか」「クリアランスがどう影響するか」といった基本的な金属加工の知識は学習済みです。現場固有の条件(特定の金型のクセ、特定の材料ロットの傾向など)はAIには分かりませんが、それを人間が補足情報として伝えることで、実用レベルの回答が得られます。
Q. 中小のプレス工場でもすぐに使えるか?
はい。特別なシステム投資は不要で、スマートフォンかパソコンとインターネット接続があれば今日から使えます。私がAIを導入したのも宿泊業という「IT化が遅れた現場」でしたが、むしろそういう現場ほど効果が出やすいと実感しています。
Q. 顧客への機密情報漏洩が心配だ
製品品番や顧客名など機密性の高い情報は入力せず、「SPCC t0.8mmの丸穴打ち抜き品」という形に抽象化して入力する運用ルールを決めてください。ビジネスプランのAIでは入力データが学習に使われない設定も可能です。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

