「AIで何かやれ」と言う社長が一番危ない

076 所長コラム

「AIで何かやれ」と言うだけで自分は何も触らない経営者は、AI導入の最大の障壁になります。

これは私の周りを見てきた、偽らざる実感です。

「AI活用を推進せよ」という号令を出す社長は増えました。しかし多くの場合、社長自身はAIを触ったことがない。部下に丸投げし、「何か報告しろ」と待っている。このパターンが、どれだけ多くの組織でAI導入を止めているか。

今日は少し厳しいことを書きます。でも経営者として同じ立場から言うからこそ、聞いてほしい。

1. 「AIで何かやれ」がなぜ組織を壊すのか

社長が「AIで何かやれ」と言うとき、現場では何が起きているか。

担当になった社員は困惑します。「AIって何をすればいいんだろう」「間違えたら怒られるかもしれない」「失敗したら責任を取らされる」。こうした不安が先に立ち、社員は「安全な提案」しかしなくなります。

結果として起きるのは「とりあえずChatGPTのアカウントを作りました」「ツールの勉強会を開きました」という報告だけで終わるパターンです。業務に何も変化がない。3ヶ月後、誰もAIを使っていない。

これは社員のせいではありません。「自分は何もしない」という経営者の姿勢が、現場を正直に映しているだけです。

2. 私がかつて同じ失敗をした話

告白しますが、私も最初はこのパターンでした。

「AIを使え」と言いながら、自分はPCが苦手という言い訳で触らなかった。社員が試行錯誤しているのを横で見ていた。推進会議を設けたが、発言するのは社員ばかりで私は「うん、うん」と聞くだけ。

転機は、ある社員に言われた一言です。「社長(私の場合は専務ですが)が使っているのを見たことがないんで、本当に必要なのかよく分からないです」。

刺さりました。「俺が使っていないのに、使えと言っていた」という事実に、初めて正面から向き合えた瞬間でした。

翌日からChatGPTを毎朝開くことにしました。最初は本当に簡単なことから。「今日の会議のアジェンダを作って」。それだけ。でもその体験が、すべての起点になりました。

3. 経営者が「自分で触る」ことの3つの効果

経営者自身がAIを使うことには、業務効率化以上の意味があります。

効果1:現場が動く
経営者が自分のAI活用事例を社内で共有すると、現場の空気が一気に変わります。「社長がやっているなら、自分もやってみよう」という心理的安全性が生まれます。トップダウンの号令より、トップの背中のほうが何倍も効きます。

効果2:何に投資すべきかが分かる
自分で使っていれば「このツールは使いやすい・使いにくい」「この業務には合う・合わない」が分かります。体験なき投資判断は博打です。経営者として、自分が理解している領域にリソースを配分するのが鉄則です。

効果3:「AIに任せてはいけないこと」が分かる
AIは万能ではありません。誤情報を出すこともある。判断の責任を取れない。自分で触って初めて「ここは人がやるべきだ」という判断ができるようになります。丸投げでは、この判断もできません。

4. 丸投げ社長が作り出す「AI幻滅フェーズ」

AIに限らず、新しい技術の普及には「幻滅フェーズ」があります。「期待が高まりすぎた後に、現実とのギャップで失望する」時期です。

丸投げ社長がいる組織では、このフェーズが早く来ます。「AIをやれ」と言ったのに成果が出ない。社員を責める。「やっぱりAIなんか使えない」と結論づける。次の流行りの技術に飛びつく——このサイクルを繰り返す会社を何社も見てきました。

対照的に、経営者自身が小さな成功体験を作り「自分はこう使ってこうなった」を示せる会社は、幻滅フェーズに入りません。現実的な期待値を持って、着実に使い続けられます。

5. 今日から始める「丸投げ脱出」3ステップ

今日から変えられます。難しくありません。

ステップ1:今日中にAIを1回使う
メール1本の返信文案を作ってもらう。明日の会議のアジェンダを作ってもらう。何でもいい。「使った」という事実を1つ作る。

ステップ2:使った結果を社員に話す
「今朝AIを使ってこれを作った。30分が5分になった」という話をする。会議でも、雑談でもいい。経営者の言葉は現場に伝わります。

ステップ3:推進担当に「自分の体験」を渡す
「私はこう使った。あなたはどう広げられる?」と問いかける。丸投げではなく「自分も当事者」として関わる姿勢が、組織を動かします。

「俺でもできたから、あなたもできる」——私がAI内製化を語るときに必ず言うのはこの言葉です。経営者が自ら動くことが、すべての出発点です。

よくある質問

Q1. 経営者がAIを使えるようになるまで、どれくらいかかりますか?
A. 「使えるようになる」の基準にもよりますが、毎日1〜2回触れば2週間で実感が変わります。特別な学習時間は不要で、既存業務の中にAIを挟むだけで十分です。

Q2. AIを現場に任せると失敗するのですか?
A. 全部を現場任せにするから失敗します。経営者が方針と優先順位を示し、現場が実行する分担が正しい形です。「やれ」と言うだけでは方針も優先順位も現場には伝わりません。

Q3. 技術的なことは本当に分からなくても大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。私も技術は分かりません。「経営者に必要なのはAIの仕組みの理解ではなく、使った体験と判断力」です。仕組みは社員に任せ、経営者は使う・判断する・広めるの3つに集中してください。


この記事を書いた人

山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

📣 この記事が役に立ったらSNSでシェアしてください / 🔗 関連記事:[AI時代の経営戦略:内製化が競争優位になる理由]

FROM INSIGHT TO IMPLEMENTATION

記事の知識を、自社の実務へ。

読むだけで終わらせず、業務整理、試作、社員教育、運用改善までつなげたい企業向けに、次の入口を用意しています。

取材・情報提供・寄稿・共同調査の窓口はこちら。広告・提携の有無にかかわらず、掲載内容は編集方針に基づいて判断します。

タイトルとURLをコピーしました