鋳造の人手不足は、その大部分をAIで補える「技術継承文書の作成・品質記録・採用広報」と、熟練鋳造士にしか残せない「溶湯の温度感覚・湯流れの読みと砂型の勘所」に分解できます。
鋳造の現場と、求人票が物語る人手不足
鋳造は、溶かした金属を型に流し込んで製品形状を作る製造方法だ。自動車のエンジン部品・ポンプのボディ・マンホールの蓋まで、「大きくて複雑な金属の塊」はほぼ鋳造で作られている。砂型鋳造・ダイカスト・精密鋳造など工法は様々だが、共通しているのは「高温・重労働・職人技」という特性だ。
業界調査では、鋳造工場の人手不足について「深刻な影響がある」「影響がある」と答えた企業が6割を超えるという結果が出ている。求人サイトで「鋳造 製造」と検索すると、「造型経験者優遇」「溶解・鋳込み経験者歓迎」という条件が並ぶが、応募が来ないため「未経験から育てます・寮完備・資格取得支援あり」という破格の条件を並べた求人も目立つ。
「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが敬遠されやすく、若い世代の応募が少ない。それでも国内の鋳造品需要は底堅く、仕事はあるのに人がいない、という状況が続いている。
求人から読み取れる3つの困りごと
① 溶解・鋳込み条件のノウハウが「感覚」のまま継承されていない
「溶湯温度はこのくらい」「このときの砂の締め具合はこれ」という熟練の判断は、数十年かけて身につけるものだ。しかしそれが文書化されていないため、ベテランが退職すると「なぜ不良が出るのか分からない」という事態が起きる。求人票の「経験者優遇」は、この暗黙知を即戦力に期待しているサインだ。
② 品質管理文書・不良分析レポートの作成が工場長に集中する
鋳造品は「引け巣・ガス巣・型ずれ」といった不良が発生しやすく、原因分析と是正処置の記録が品質管理上必要だ。しかし現場では工場長がその文書作成まで担っており、管理業務に追われて現場指導の時間が取れないという声が多い。
③ 採用・広報で「鋳造の面白さ」を言語化できていない
鋳造は実は技術的に非常に深く、金属の物理挙動を理解する知的な仕事だ。しかしそれが採用広報で伝わっておらず、「古臭い工場仕事」というイメージを払拭できていない。
その困りごと、AIならこうなる
困りごと①:溶解・鋳込み条件の技術継承文書の作成
Before: ベテランの「感覚」が一切書かれていないため、新人が判断に迷うたびにベテランを呼ぶしかない。
After: AIがベテランの口述を体系化し、工法別・材料別の作業標準書を作る。
【プロンプト例①:砂型鋳造 作業標準書のドラフト作成】
以下の熟練鋳造士が語った内容をもとに、
「砂型鋳造 鋳込み作業標準書」のドラフトを作成してください。
新人が読んで実作業の判断基準にできるレベルで、箇条書き+表形式で。
【ベテランが語った内容】
・FC250の場合、溶湯温度は1380〜1420℃で鋳込む。それ以下だと流れが悪い
・砂型の水分が多いとガス欠陥が出る。砂を握って崩れる硬さが目安
・湯口径は製品重量の10%程度を目安に設計する
・大物部品は湯道を複数にして充填速度を下げる
・鋳込み後15分以内に砂を外してはいけない(急冷による割れ防止)
困りごと②:不良原因分析レポートの自動生成支援
Before: 不良が発生するたびに工場長が原因調査から是正処置まで文書化しており、1件につき2〜3時間かかる。
After: 不良の状況・発生条件をAIに入力し、原因分析・是正処置のドラフトを生成する。
【プロンプト例②:不良原因分析レポートのドラフト作成】
以下の鋳造不良の情報をもとに、品質管理用の「不良原因分析・是正処置報告書」を作成してください。
4M分析(Man・Machine・Material・Method)の観点を含めて。
【不良情報】
・製品名:FC250 ポンプボディ(重量8kg)
・不良内容:製品中央部に引け巣(長さ約15mm、深さ5mm)
・発生ロット:20個中3個に確認
・作業時の状況:溶湯温度1350℃(標準より低め)、当日は新人オペレーターが担当
・過去の類似不良:同形状で2ヶ月前にも1件発生
困りごと③:採用広報コンテンツの言語化
Before: ハローワークの求人票に「鋳造作業員募集」と書くだけで、仕事の魅力が伝わっていない。
After: AIが鋳造の技術的な面白さを若い世代に向けて言語化した採用広報文を作る。
【プロンプト例③:採用広報文(若者向け)の作成】
以下の条件をもとに、鋳造工場の採用ページに掲載する「仕事の魅力紹介文」を作成してください。
20〜30代の未経験者が「やってみたい」と感じるような文体で。
技術的な奥深さ、成長実感、仲間と作る誇りを盛り込んでください。
【会社情報】
・業種:鉄鋼鋳造(砂型鋳造中心)
・主な製品:自動車部品・農機具部品・産業機械部品
・従業員数:25名
・研修制度:入社後3ヶ月は先輩社員がマンツーマンで指導
・資格支援:鋳造技士(国家資格)の取得費用を会社が全額負担
・職場の雰囲気:20代〜60代が混在、「先生と生徒」ではなく「仲間」として育てる文化
導入ステップと費用感
ステップ1(月1,000〜3,000円): AIチャットツールを導入し、まず不良原因分析レポートのドラフト作成から始める。工場長が文書作成に費やしている時間を回収することが最初のゴールだ。
ステップ2(月5,000〜1万円): NotionなどにAIを組み込み、工法別の作業標準書データベースを整備する。ベテランが退職する前に知識を「資産化」することが中長期的な経営リスクの低減につながる。
ステップ3(要見積もり): IoTセンサーと温度・圧力データをAIで可視化し、溶湯管理の標準化を進める。鋳造の不良率低減は直接コスト削減につながる。
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認) も活用しながら、文書業務のAI化と設備IoT化を組み合わせて取り組みたい。
よくある質問
Q. 鋳造の技術はAIには絶対分からないと思うが?
「溶湯の感覚」はAIには分かりません。ただ、その感覚を文字に変えて「次の人に伝える形」に整理することはAIが得意とすることです。技術は職人の頭の中にあっても、文書にならない限り会社の資産になりません。AIはその「翻訳者」として使えます。
Q. 不良分析のような専門的な文書はAIに作れるのか?
4M分析の枠組み自体はAIが理解しています。「この不良はMachineの問題か、Methodの問題か」という整理のドラフトを作る助けになります。最終的な原因の特定は現場の技術者が判断しますが、「何を調べるべきか」のリスト化にAIを使うだけで大きく時短できます。
Q. 採用広報の文章をAIで作ると、嘘っぽくなりませんか?
AIが作ったドラフトを「そのまま使う」のではなく、現場の社員が読んで「そうそう、これが面白いんだよ」という部分を残し、嘘の部分を削る形で使います。ゼロから文章を考えるより、ドラフトを修正するほうが格段に速い。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

