訪問介護の人手不足は「ケアそのもの」ではなく「ケアを囲む事務作業」をAIに任せることで、今いるスタッフの可処分時間を劇的に増やせる。
私が宿泊事業600室を回す中で痛感しているのは、現場の人手不足の正体が「絶対数の不足」より「一人当たりの非生産的時間の多さ」にあるということだ。訪問介護の現場でも、同じ構造が起きている。
訪問介護の現場と、求人票が物語る人手不足
訪問介護員(ホームヘルパー)は、利用者宅を一軒一軒回り、食事・入浴・排泄介助、掃除・洗濯といった生活援助を提供する。移動を含めると一日に複数件を担当し、帰社後には各利用者の介護記録を書かなければならない。
求人サイトで「訪問介護 ヘルパー」と検索すると、こんな文言が目につく。
- 「直行直帰OK、スマホで記録入力できます」
- 「記録は音声入力対応で負担軽減中」
- 「担当エリア固定、移動時間を短縮」
- 「シフト相談OK、扶養内勤務歓迎」
「直行直帰」「記録負担の軽減」「シフト融通」——この三点セットが頻出することは、裏を返せば「記録に時間がかかる」「出退勤に縛られる」「シフト管理が煩雑」が長年の課題であることを示している。
求人から読み取れる3つの困りごと
① 介護記録の入力に時間がかかりすぎる
ケアの後に利用者宅や車内でスマホ入力する記録は、1件あたり10〜20分かかることも珍しくない。件数が多い日は帰社後1時間近く記録作業に費やすスタッフもいる。「記録ができる人を採用したい」という求人文言は、この負担の大きさを物語っている。
② 利用者・家族への連絡対応が属人化している
「急に体調が悪い」「今日は休みたい」という連絡が、特定のベテランスタッフの携帯に直接かかってくる事業所は多い。担当者不在時の引き継ぎ漏れやクレームにつながりやすく、管理者の精神的負担も大きい。
③ シフト作成と調整が毎月の難問になっている
訪問介護はスタッフの資格・エリア・空き時間を組み合わせる複雑なパズルだ。人が替わるたびに一から組み直しが必要で、管理者がシフト表作りに丸1日かけるケースも珍しくない。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After:介護記録の入力
Before: ケア終了後、スマホや紙に手書きした走り書きをもとに記録システムへ入力。1件15分×5件=75分が純粋な入力作業。
After: ケア中・直後に音声メモを30秒録音。そのテキストをAIに渡して記録文に変換。確認・修正で3〜5分に短縮。
【プロンプト例①:介護記録の文章化】
以下は訪問介護後の音声メモです。介護記録として適切な文体(ですます調・事実ベース)に整形してください。
利用者名は「ご本人」と置き換えてください。
音声メモ:
「今日は11時着。バイタル測って体温36.4、血圧128の76。食欲あり、昼食は全量摂取。入浴介助実施、湯温42度、ご本人希望。右膝に軽度の赤みあり、前回より変化なし。ご家族から電話あり、週末の外出について確認済み。14時退出。」
出力形式:
・訪問時刻・バイタル
・食事・入浴の状況
・身体観察
・連絡事項
の4項目で箇条書き。
【プロンプト例②:家族への連絡文の下書き】
訪問介護スタッフとして、以下の状況を利用者のご家族へ報告するメッセージを書いてください。
丁寧だが簡潔に、LINEで送れる長さ(150字以内)にまとめてください。
状況:本日の訪問で、右膝に前回と同程度の赤みを確認しました。本人は痛みを訴えておらず食欲も通常通りです。念のため次回訪問時も経過観察します。
Before → After:シフト調整の下準備
Before: 管理者がExcelとにらめっこしながら来月のシフト案を手動作成。スタッフへの個別確認のメールや電話で半日が消える。
After: スタッフの希望シフトをテキスト化してAIに渡し、組み合わせの叩き台を自動生成。管理者は調整だけに集中。
【プロンプト例③:シフト叩き台の生成】
以下の条件でシフトの叩き台を作ってください。
スタッフと希望:
・Aさん(資格:ヘルパー2級):月・水・金 9〜14時
・Bさん(資格:介護福祉士):火・木 終日、土 午前
・Cさん(資格:ヘルパー2級):月〜金 9〜12時のみ
利用者訪問枠(週あたり):
・Xさん:月水金 10〜11時(入浴介助→介護福祉士以上が望ましい)
・Yさん:火木 9〜10時(生活援助のみ)
・Zさん:毎日 8〜9時(早朝対応可能なスタッフ限定)
出力:週次シフト表(表形式)と、担当できないカバーが必要な時間帯の一覧。
導入ステップと費用感
ステップ1(月0〜数千円): ChatGPT無料プランまたはClaude.aiでプロンプトを試す。記録文の下書き生成から始めれば、初日から効果を実感できる。
ステップ2(月1,000〜5,000円程度): 有料プランに移行し、記録テンプレートをチームで共有。スタッフ全員が同じプロンプトを使えるよう「プロンプト集」を一枚紙でまとめる。
ステップ3(月1万〜3万円程度): 音声記録→テキスト変換→AI清書の自動化ツール(Whisper API等)を組み合わせ、記録業務をほぼゼロにする。業務改善ツールとしてデジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)の活用も検討したい。
よくある質問
Q. 介護記録にAIを使うと、記録の正確性に問題が出ないか?
AIが生成した文章は必ず担当スタッフが確認・修正してから登録する運用にすれば問題ない。AIはあくまで「下書き機械」であり、最終判断は人間が行う。むしろ口頭メモを忘れずに文字化できるため、記録漏れの防止につながる。
Q. ITが苦手なスタッフが多い事業所でも導入できるか?
スマートフォンでLINEやSNSを使えるレベルであれば十分。ChatGPTやClaudeはLINE感覚で文字を打つだけで動く。まず管理者一人がプロンプトを整備し、スタッフはそのテンプレートをコピペするだけの仕組みにするのが導入成功の鍵。
Q. 個人情報の扱いはどうすればよいか?
AIへ入力するテキストには利用者の実名・住所を含めないこと。「ご本人」「80代女性」などの表現に置き換えるルールを徹底すれば、プライバシーリスクを最小化できる。有料の法人向けプランはデータを学習に使用しない設定が可能なものも多い。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

