めっき・表面処理の人手不足は、その大部分をAIで補える「薬品管理記録・品質文書・顧客仕様変更への対応文書作成」と、熟練技術者にしか残せない「液管理の感覚的判断・外観品質の目視検査・処理条件の微調整」に分解できます。
めっき・表面処理の現場と、求人票が物語る人手不足
めっき・表面処理は、金属・プラスチック製品の表面に別の金属や化学皮膜を形成することで、耐食性・硬さ・導電性・外観を高める工程だ。電気めっき・無電解めっき・アルマイト・クロメート・塗装前処理など工法は多岐にわたり、自動車・電子部品・建材・医療機器など幅広い産業の川下に位置する縁の下の力持ち的業種だ。
求人サイトで「めっき 表面処理」と検索すると、「薬品管理の経験者歓迎」「化学系の知識がある方」「品質管理の実務経験者」という条件が並ぶ。一方で「化学の知識は入社後に習得できます」という求人も多く、「知識がある人は来てくれない、だから育てるしかない」という現場の苦悩が見える。
また「危険物取扱者(乙種)の資格取得支援あり」という記載が目立つのも特徴だ。薬品を扱うため法的な資格が必要なのに、その資格保有者が採れない。
求人から読み取れる3つの困りごと
① 薬品浴の管理記録・分析記録が手作業で非効率
めっき液(浴液)は定期的に成分を分析し、濃度・pH・温度を管理する必要がある。この管理記録がExcelや手書き台帳で行われており、記録の転記・集計・傾向分析に時間がかかる。求人で「事務作業も担当」という一文が出てくる背景に、この記録業務の負担がある。
② 顧客ごとの仕様が複雑で、対応する文書管理が煩雑
めっきは顧客ごとに「膜厚◯μm以上」「光沢有無」「耐食性試験時間」など仕様が異なる。それを管理するための「顧客別仕様一覧」「製品別作業標準書」の整備が追いつかず、仕様変更があるたびに担当者が走り回る。
③ 不良(はじき・ピンホール・変色)の原因分析文書が属人化
処理不良が発生したとき、「なぜ起きたか・どう対処したか」を記録に残しているのはほぼベテランだけで、その知識が組織の資産になっていない。
その困りごと、AIならこうなる
困りごと①:浴液管理記録の集計・分析コメント自動生成
Before: 毎日の分析値をExcelに打ち込んで終わり。傾向を分析する時間がなく、問題が起きてから気づく。
After: 分析値をAIに渡し、傾向コメントと補充判断のドラフトを生成する。
【プロンプト例①:めっき浴管理記録の傾向分析コメント作成】
以下の電気ニッケルめっき浴の1週間分の管理データをもとに、
「今週の浴管理サマリー」と「来週の補充・調整の推奨事項」を作成してください。
担当者が上長に報告するための簡潔なコメント形式で。
【管理データ(月〜金)】
・ニッケル濃度(g/L):72, 71, 70, 69, 68(標準:70〜80g/L)
・pH:4.2, 4.1, 4.1, 4.0, 3.9(標準:3.8〜4.5)
・浴温(℃):55, 55, 56, 55, 54(標準:50〜60℃)
・光沢剤補充量(ml):なし, 50, なし, 50, 50
・不良発生:木曜日に1件(ピンホール、数量3個/100個)
困りごと②:顧客別仕様管理シートの整備
Before: 顧客ごとの仕様がメールのやり取りや担当者の記憶に散在しており、仕様変更があるたびに確認作業が発生する。
After: AIが顧客別仕様の一覧化テンプレートを作り、情報を整理するコストを下げる。
【プロンプト例②:顧客別めっき仕様管理シートのテンプレート作成】
以下の情報をもとに、「顧客別めっき仕様管理シート」のテンプレートを作成してください。
複数顧客・複数製品を管理できるよう、Excelに貼り付けられる表形式で。
【管理したい項目】
・顧客名、製品名・型番
・めっき種類(ニッケル/クロム/亜鉛/無電解ニッケル等)
・膜厚指定(最小・最大)
・光沢指定(有光沢/半光沢/無光沢)
・耐食性試験(塩水噴霧試験時間)
・外観規格(色調・表面粗さ等)
・特記事項(マスキング箇所・禁止物質等)
・最終更新日・改訂履歴
困りごと③:不良原因分析・是正処置報告書のドラフト作成
Before: めっき不良が発生するたびに、ベテランが原因調査から是正処置の文書化まで担い、他の業務が後回しになる。
After: 不良の状況と条件をAIに入力し、是正処置報告書のドラフトを生成する。
【プロンプト例③:めっき不良の是正処置報告書ドラフト作成】
以下のめっき不良情報をもとに、顧客提出用の「不良発生・是正処置報告書」を作成してください。
不良概要・推定原因・暫定処置・恒久対策・再発防止の項目を含めてください。
【不良情報】
・製品:自動車用アルミブラケット
・処理:亜鉛三価クロメート
・不良内容:製品の一部(コーナー付近)に変色(茶褐色)が発生
・発生数量:250個中12個
・処理条件:通常と同様だが、当日は外気温が高く浴温が62℃まで上昇(標準55℃)
・推定原因:浴温超過による三価クロメート皮膜の分解
・暫定処置:該当ロットを全数選別済み
導入ステップと費用感
ステップ1(月1,000〜3,000円): AIチャットツールを導入し、浴管理サマリーコメントの作成から始める。毎日の分析値を入力するだけで「今週の浴の状態」が言語化される感覚は、現場でじわじわ効いてくる。
ステップ2(月5,000〜1万円): 顧客別仕様管理シートと不良事例データベースをNotionに整備する。新担当者が顧客仕様を把握するまでの時間が大幅に短縮される。
ステップ3(要見積もり): 浴液管理システムとAIを連携させ、分析値の自動記録・アラート設定を実現する。薬品の無駄遣いと不良率の低減が直結する。
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認) の対象になり得るため、地域の支援機関に相談しながら進めたい。
よくある質問
Q. 薬品の管理はミスが命取りになるのに、AIに任せて大丈夫?
AIに「薬品を管理させる」のではなく、「記録を整理して報告文を作らせる」という使い方です。補充量や調整の最終判断は必ず技術者が行います。AIはあくまで「整理係・文書作成係」です。
Q. 顧客の仕様は機密情報なので、AIに入力するのが怖い。
有料プランでは入力内容の学習利用を無効化できます。機密情報を入力する際は設定を確認してください。また社内限定のAI環境(Azure OpenAI等)を構築することで、データが外部に出ない形にすることも可能です。
Q. めっき業は高齢化が進んでいると聞く。経営者自身がIT苦手でも使えますか?
使えます。私自身も元々PC音痴でした。スマートフォンでLINEが使えるなら、AIチャットも同じ感覚で使えます。最初の1週間は「メールの返信文を書いてもらう」だけでいい。それで「使えるな」と感じてから、業務に組み込んでいけばいい。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。
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