解体業の人手不足の核心は「法令対応書類の複雑化」と「廃棄物分別管理のノウハウ属人化」にあり、AIを活用することで法令対応書類の作成時間を大幅に削減しながら若手教育の基盤を整備できる。
解体業は建設業の中でも特殊な位置にある。建てるのではなく、壊す。しかしただ壊すのではなく、アスベスト・廃棄物・振動・粉塵・隣家への影響——数多くの規制とリスクを管理しながら進める、非常に高度な専門職だ。
私は宿泊施設の建替えや改修工事で解体業者にお世話になっている。「アスベスト含有の調査が必要になって期間が伸びた」という話は直接経験した。解体業界の人手不足と法令対応の複雑さは、発注者として身近な問題だ。
解体業の現場と、求人票が物語る人手不足
求人サイトで「解体工事」「解体業」と検索すると、こんな傾向が見える。「解体工事の施工経験者」「石綿作業主任者・解体工事施工技士の取得支援あり」「廃棄物の分別管理ができる方」「建設リサイクル法の知識がある方優遇」「重機オペレーター経験者は優遇・資格取得支援」——。
際立っているのは「法令対応スキル」への強いニーズだ。建設リサイクル法・大気汚染防止法(石綿規制)・廃棄物処理法——解体工事は近年これらの法令が次々と強化されており、「現場作業だけでなく法令書類まで対応できる人」が著しく不足している。
「石綿作業主任者」「解体工事施工技士」という資格取得支援を前面に出す求人が多いのも特徴だ。資格なしには特定の解体作業ができないため、会社として育成するしかない。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:石綿(アスベスト)事前調査報告書の作成が煩雑
2023年の大気汚染防止法改正で、解体・改修工事前の石綿事前調査とその結果の行政届出が義務化された。「石綿事前調査結果記録」の作成は専門知識が必要で、この書類作成に時間がかかる。担当できる人材が限られており、一人に集中している状況が多い。
困りごと②:廃棄物分別計画と産業廃棄物管理票(マニフェスト)の管理が複雑
解体工事では大量の廃棄物が発生し、建設リサイクル法に従って種類ごとに分別・処理する必要がある。コンクリートガラ・木材・金属・混合廃棄物——種類ごとに指定された処理業者への委託とマニフェスト(産廃の追跡書類)の管理が必要で、この事務処理が現場担当者の負荷になっている。
困りごと③:解体工事計画書・施工計画書の作成が経験頼み
近隣への騒音・振動・粉塵対策を含む施工計画書の作成は、工事前に自治体への届出が必要なケースもある。この書類作成は現場経験のあるベテランしかできないため、担当者一人に集中する。
その困りごと、AIならこうなる
困りごと①:石綿事前調査関連の説明文・報告書文章をAIで作成する
石綿事前調査の結果を記録する書類の「説明文」「所見欄」「対策の説明」などの文章パートをAIで生成する。調査で確認した事実をAIに伝え、適切な文章に整形してもらう。
【プロンプト例:石綿事前調査結果の説明文作成】
以下の石綿事前調査結果を基に、建物所有者および行政提出用の「事前調査結果説明文」を作成してください。
建物概要:1985年築・鉄骨造3階建て事務所ビル・延床面積450m²
調査結果の概要:
- 吹き付け石綿:なし
- 石綿含有断熱材(保温材):ボイラー室の配管保温材に石綿含有品を確認(レベル3相当)
- 石綿含有仕上げ材:外壁スレートにクリソタイル含有を確認(レベル3相当)
- その他:床タイル(ビニル床タイル)に石綿含有の可能性あり・分析中
説明文に含める内容:
1. 調査結果のまとめ
2. 確認された石綿含有材料の危険度の説明
3. 解体工事時の対応方針(除去方法・費用の方向性)
4. 建物所有者への注意事項
専門用語を正確に使いつつ、建物所有者(非専門家)にも分かりやすく書いてください。
【プロンプト例:廃棄物分別計画書の作成】
以下の解体工事の廃棄物分別計画書を作成してください。
工事概要:木造2階建て一般住宅の解体(延床80m²)
想定される廃棄物:コンクリートがら・木材・鉄くず・ガラス類・タイル・瓦・混合廃棄物・家電リサイクル品
建設リサイクル法の対象工事に該当
作成内容:
- 廃棄物の種類ごとの分別方法
- 各廃棄物の処理方針(再資源化・中間処理・最終処分)
- 分別管理の担当と確認方法
- 禁止事項(不法投棄・混合廃棄の防止)
元請けへの提出書類として、法令上の正確な用語を使って作成してください。
困りごと②:施工計画書の安全・環境対策パートをAIで作成する
近隣への騒音・振動・粉塵対策の文章は、現場条件さえ伝えればAIが適切な内容を生成できる。
【プロンプト例:解体工事施工計画書の近隣対策パート作成】
以下の解体工事について、施工計画書の「近隣環境・安全対策」セクションを作成してください。
工事概要:
- 建物:RC造4階建てビル(延床600m²・築35年)
- 立地:住宅密集地・前面道路幅6m
- 隣接:北側2mに3階建て住宅、南側は公道
- 工期:45日間
- 主要工法:重機(解体ガラミキサー)+手壊し併用
対策として含める内容:
- 騒音・振動の発生工程と対策
- 粉塵(散水・防塵シート等)対策
- 作業時間帯と近隣への周知方法
- 搬出車両の通行ルートと交通誘導
- 緊急時の連絡先・対応体制
困りごと③:若手向けの法令解説・社内教育テキストをAIで作る
建設リサイクル法・廃棄物処理法・大気汚染防止法の基本を若手が理解するための「解体業の法令ガイド」をAIで作成する。
導入ステップと費用感
ステップ1(月数千円〜):書類担当者が報告書・計画書作成にAIを使う
石綿事前調査報告書の説明文と廃棄物分別計画書から始める。複雑な法令対応書類の作成時間が半分以下になる。
ステップ2(月1〜2万円程度):若手育成・採用活動にも活用
「解体業の法令テキスト」をAIで作成し、社内研修に活用する。採用求人文章の作成にも使う。
ステップ3(補助金活用):廃棄物管理・現場管理のデジタル化
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)を活用し、マニフェスト電子化・現場写真管理システムとのAI連携を検討できる。
よくある質問
Q. 石綿・廃棄物法令などの法律はAIが正確に答えられるか?
大気汚染防止法・建設リサイクル法・廃棄物処理法の基礎的な内容はAIが学習しています。ただし法令は改正されることがあり、AIの知識が最新でない可能性があります。AIの回答は「方向性の確認」に使い、最終的な法令解釈・届出内容は必ず最新の法令・行政指針で確認してください。
Q. 現場の写真を使った報告書にも使えるか?
マルチモーダル機能(画像入力)に対応したAIであれば、現場写真を見ながら「この状態の説明文を書いてください」という使い方ができます。ChatGPT-4o・Claude 3系などが対応しています。解体前の状況確認写真と組み合わせることで、より具体的な報告書が作成できます。
Q. 解体業界は高齢化が進んでいると聞くが、現場の職人がAIを使えるか?
私自身、決してITに強い方ではありませんでした。AIはスマートフォンから使えますし、音声入力で「口で話しかけるだけ」で動きます。キーボードが苦手な方ほど音声入力×AIの組み合わせが効果的です。一度使い始めれば、年齢に関わらず手放せなくなります。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

