トラック配車係の人手不足は「この人がいないと配車が回らない」という属人化が生み出す構造的問題であり、AIで配車の判断根拠・情報・テンプレートを文書化・共有することが最初の解決策だ。
「配車のできる人がいなくなったら会社が止まる」——これは物流業界でよく聞く話だ。配車係が1人しかいない会社で、その人が急病になったとき、誰も代われないというリスクが現実にある。私が宿泊業で「フロントスタッフの業務マニュアルを作ること」に時間を割いたのも、同じ理由だ。特定の人間の頭にしかない知識は、組織にとってリスクだ。
トラック配車係の現場と、求人票が物語る人手不足
トラック配車係の主な仕事は、荷主からの依頼を受けてドライバーと車両を割り当て、効率的なルートで運行を管理することだ。突発的なキャンセル・追加依頼・渋滞・ドライバーの体調不良といった「イレギュラー」を瞬時に判断して対処する能力が求められる。
求人サイトで「配車係 求人」「配車事務 求人」と検索すると、次のような文言が並ぶ。
- 「トラックの配車・スケジュール管理・ドライバーへの指示出しをお任せします」
- 「お客様(荷主)からの問い合わせ・急な変更への対応もあります」
- 「経験者優遇(配車経験3年以上歓迎)・無経験は研修あり(長期の育成が必要)」
- 「臨機応変に動ける方・コミュニケーション能力の高い方」
「経験3年以上」という条件が頻繁に見られること、そして「育成に時間がかかる」という表現が多いことが、この職種の属人性の高さを如実に表している。2024年問題でドライバーの時間外労働に上限が設けられた今、配車係の「どのドライバーにどの仕事を振るか」の最適化能力は以前にも増して重要になっている。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:配車ノウハウがベテランの頭の中にしかない
「◯◯のルートは◯◯さんじゃないとこなせない」「△△の荷主は△△さんとの関係値が必要」といった知識が文書化されておらず、ベテランが辞めたり病欠したりすると配車が混乱する。
困りごと②:荷主からの突発変更・緊急連絡の対応が集中する
「出発30分前に積み荷の変更が入った」「朝イチで荷主から電話が来る」という状況が毎日のように発生し、配車係が常に緊張状態に置かれる。この対応記録も属人化していて、後から振り返れない。
困りごと③:ドライバーへの指示・連絡文書の作成が毎回手作業
「本日の運行指示書」「荷主ごとの注意事項一覧」「イレギュラー時の連絡フロー」——これらの文書を毎回一から書くか、古いテンプレートを使い回すかのどちらかで、更新が追いつかない。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After:配車ノウハウの文書化
Before:ベテラン配車係が「俺の頭の中にある」ルールを口頭で後輩に伝えるが、後輩は覚えきれない。
After:ベテランへのインタビューをChatGPTで「配車判断マニュアル」に整形。「どの条件のとき、どのドライバーを優先するか」という判断基準が文書として残り、引き継ぎが可能になる。
【プロンプト例①:配車判断マニュアルの整形】
以下のインタビュー内容をもとに、新人配車係向けの「配車判断基準マニュアル」を作成してください。
インタビュー内容:
・大型荷物(4t以上)は田中ドライバーか佐藤ドライバーのどちらかに割り当てる
・◯◯工場からの急ぎ便は必ずLINEで直接連絡を入れてから配車する
・雨天時は△△方面のルートが渋滞しやすいので出発時刻を30分早める
・荷主の□□物産は17時以降の配達を断ることが多い(事前確認が必要)
出力形式:
「条件」→「対応方法」→「担当者または確認先」の3列マトリクス形式
新人が一人でも判断できる粒度で記載すること。
Before → After:ドライバーへの運行指示書・連絡文書
Before:毎朝の運行指示書を担当者が手作業で作成。ドライバーごとに内容を変えながら書くのに1時間かかる。
After:ChatGPTに「今日の配送先・荷主・時間帯・注意事項」を入力すると、ドライバー別の運行指示書が一括生成される。
【プロンプト例②:ドライバー別運行指示書の一括生成】
以下の配送情報をもとに、各ドライバー向けの運行指示書を作成してください。
配送情報:
・田中ドライバー:◯◯工場→△△倉庫(9:00出発、10:30着)、荷物:パレット3枚、注意:構内10km制限
・佐藤ドライバー:□□物産→◯◯センター(10:00出発、12:00着)、荷物:冷蔵品、注意:温度管理記録必須
・鈴木ドライバー:◯◯商社→△△支店→□□工場(8:30出発、3件回り)、注意:最終着予定16:30
出力形式:ドライバーごとに見やすく分けた運行指示書(A4サイズ横で印刷できるイメージ)
Before → After:突発変更の記録・振り返り
Before:イレギュラー対応は口頭で解決し、記録が残らない。同じトラブルが繰り返される。
After:対応後に「今日のイレギュラーメモ」を短文でChatGPTに入力し、「トラブル事例集」に追記する形式で記録。月次で振り返り、再発防止策を更新する。
導入ステップと費用感
Step 1(月1,000〜3,000円):ChatGPT Plusで配車マニュアルの草稿作成と運行指示書テンプレートの整備から始める。ベテランへのインタビューを1時間設けるだけで、かなりのノウハウを文書化できる。
Step 2(月5,000〜1万円):Googleスプレッドシートで配車実績データを管理し、ChatGPTで月次分析。「どのルートで遅延が多いか」「どのドライバーの稼働率が低いか」を可視化する。
Step 3(月1万〜5万円):クラウド型配車管理システムとAI分析を組み合わせ、配車最適化の自動提案機能を導入する。2024年問題対応の時間管理も同時に実現する。
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)は運送業の業務デジタル化に活用できる可能性が高い。配車管理システム導入と組み合わせて申請を検討してほしい。
よくある質問
Q. AIは「人間の直感的な配車判断」を代替できますか?
現時点でAIが配車の全判断を自動化することは難しい。しかし「判断基準の文書化」「指示書の作成」「実績データの分析」はAIが十分に対応できる。人間の判断を「AIが補助する」という使い方が現実的だ。
Q. ベテラン配車係がAIを嫌がる場合はどう説得すればいいですか?
「あなたのノウハウをAIで整理・保存する」というフレームで提案するといい。「あなたの知識を守るための作業」と伝えれば、協力を得やすい。
Q. 2024年問題で配車係の業務量は増えていますか?
増えている。ドライバーの時間外労働に上限が設けられた分、同じ仕事量をより短い時間でこなすための配車最適化が必要になっており、配車係の判断精度への要求が高まっている。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。
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