訪問看護ステーションでAI導入を始めるなら「訪問後の報告書・記録の下書き生成」からスタートするべきで、これだけで一人の看護師が1日あたり30〜60分の時間を取り戻せる。
訪問看護師は「一人で判断する場面が多い」という責任の重さと、「帰社後の記録・連絡・報告が山積み」という事務負担の重さを同時に抱えている。2025年までに13万人の看護職が訪問看護で必要とされているが、その絶対数が確保できていない。ここで大事なのは、「人を増やす前に、今いる人の事務負担を減らす」発想だ。
訪問看護ステーションの現場と、求人票が物語る人手不足
訪問看護師は、医師の指示書のもとで利用者宅を訪問し、バイタル測定・処置・服薬管理・家族への指導などを行う。直行直帰が多く、帰社後に記録を入力し、医師やケアマネへ連絡・報告する流れが標準的だ。
求人サイトで「訪問看護師 常勤 ステーション」と検索すると、こんな文言が並ぶ。
- 「直行直帰OK、スマホで記録入力対応」
- 「オンコール対応あり(月◯回程度)」
- 「担当利用者数は少なめ設定、ゆとりある働き方」
- 「看護記録は専用ソフトで入力、ペーパーレス化済み」
- 「チームで情報共有、一人で抱え込まない体制」
「直行直帰+スマホ記録」「オンコール月◯回」「担当数少なめ」「チーム共有」——これらは「記録が重い」「オンコールで疲弊する」「孤独な判断がしんどい」という訪問看護ならではの離職要因への対策を、正直に求人文言で表現したものだ。
求人から読み取れる3つの困りごと
① 訪問後の看護記録・報告書作成に1日1〜2時間かかっている
訪問1件あたりの記録は、バイタル・処置内容・観察事項・次回への申し送りと多岐にわたる。直行直帰スタイルでは帰宅後に記録作業が集中し、プライベートを圧迫する。これが離職の大きな要因の一つになっている。
② 医師・ケアマネへの連絡文書が毎回ゼロから作成になっている
状態変化があった利用者について、医師やケアマネに状況を伝えるFAX・メール・電話メモを毎回作文している。表現の統一や漏れのない報告が求められる一方、定型フォーマットが整備されていない事業所も多い。
③ オンコール対応後の記録と申し送りが翌朝のロスにつながっている
夜間対応した内容を翌朝のチームに引き継ぐ文書が「口頭のみ」か「走り書きのメモのみ」になりがちで、情報共有の質にムラが生じる。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After:看護記録の下書き生成
Before: 訪問終了後、スマホや手帳に書いたメモをもとに看護記録を入力。1件あたり15〜20分×5〜6件=1時間以上の記録作業が常態化。
After: 訪問直後に音声メモを録音、または箇条書きメモを打つ。AIに渡すと看護記録形式の下書きが即座に完成。確認・修正で1件3〜5分に短縮。
【プロンプト例①:訪問看護記録の下書き生成】
以下の訪問看護後のメモをもとに、看護記録として適切な形式に整えてください。
客観的事実ベース、医療職が読む文体(です・ます調)。
利用者名は「ご本人」に置き換えてください。
メモ:
・9:30到着。バイタル:体温36.5、血圧142/88、脈拍72、SpO2 96
・昨夜から咳が増えた、食欲やや低下
・肺音確認、右肺底部で軽度の喘鳴あり(前回と同程度)
・吸入器の使用方法を再指導、本人理解OK
・家族(娘さん)から「夜に起きていることが増えた」と情報
・主治医へ喘鳴継続の状況を電話報告済み、指示変更なし
・次回は3日後、引き続き呼吸状態の観察継続
出力:①バイタル ②主観情報(本人・家族) ③客観所見 ④実施内容 ⑤連絡・申し送り の順で。
Before → After:医師・ケアマネへの状態報告文
Before: 利用者の状態変化をFAXやメールで報告するたびにゼロから作文。「どこまで書けばいいか」「表現が適切かどうか」の迷いで時間を取られる。
After: 状況を箇条書きで入力するとAIが規定フォーマットに沿った報告文を生成。確認・送信のみで完結。
【プロンプト例②:ケアマネ向け状態変化報告文の作成】
以下の状況をもとに、担当ケアマネジャーへ送るFAX報告文を作成してください。
200〜300字、敬語・丁寧語、事実ベース。
「引き続き連携をお願いします」で締めてください。
状況:
・対象:要介護3の80代女性、在宅療養中
・変化内容:3日前から食事量が通常の半量以下、体重1kg減少
・現在の状態:倦怠感あり、発熱なし、腹痛の訴えなし
・実施済み対応:主治医に報告済み(消化器症状の経過観察、食事形態見直しを提案)
・家族の状況:娘さんが心配しており、次回面談希望
Before → After:オンコール対応後の申し送り文
Before: 夜中の対応内容を翌朝に口頭で引き継ぐだけで記録なし、または走り書きのメモが残るのみ。チームの情報共有に「言った・言わない」が生じる。
After: 対応後すぐにスマホのメモアプリに箇条書きを入力し、翌朝AIで申し送り文に変換。5分でチーム全員への正確な引き継ぎが完成。
【プロンプト例③:オンコール対応後の申し送り文作成】
以下のオンコール対応メモをもとに、訪問看護チームへの翌朝申し送り文を作成してください。
チームが読む想定、100〜150字、要点を箇条書きで。
対応メモ:
・23:15、家族から電話。「本人が「胸が苦しい」と言っている」
・バイタルを電話で確認→SpO2 94、脈拍90、体温36.8
・主治医へ電話相談→「様子見でOK、悪化したら救急へ」の指示
・本人・家族に指示内容を説明、落ち着いたことを確認
・翌朝9時に訪問予定→SpO2と胸部症状の観察継続
導入ステップと費用感
ステップ1(月0〜数千円): 管理者看護師またはリーダーがChatGPT/Claudeを1週間試す。記録1件の所要時間が半分以下になることを体感する。
ステップ2(月3,000〜1万円程度): 訪問記録・報告文・申し送りの3種のプロンプトテンプレートをスタッフ全員に共有し、使用を習慣化する。
ステップ3(月1万〜3万円程度): 音声入力×AI変換の仕組みを整備し、訪問直後にほぼリアルタイムで記録が完成する体制を構築。デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)を活用すれば費用対効果が高まる。
よくある質問
Q. 看護記録はAIが作ると法的・倫理的に問題はないか?
看護記録の責任は看護師本人にある。AIはあくまで「下書きを生成するツール」であり、看護師が内容を確認・修正して記録するプロセスは変わらない。「AIが書いた」ではなく「AIが補助した看護師の記録」という理解が正しい。
Q. 情報セキュリティはどう担保するか?
入力するのは「バイタル・症状・処置内容」であり、利用者の氏名・住所・保険番号などの個人特定情報は含めないこと。法人向け有料プランではデータが学習に使用されない設定を選べるものもある。
Q. 訪問先でスマホ入力することに利用者・家族が違和感を持たないか?
「記録を正確に残すためにスマホで入力しています」と一言添えれば理解が得られることが多い。紙への手書きより正確で漏れが少ないという点で、利用者・家族にとってもメリットのある説明ができる。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

