もし行政書士事務所がAIを活用したら?求人から見えた人手不足の正体と処方箋

173 業種別AI内製化

行政書士事務所の求人票には「書類作成の補助・電話・メール対応・情報収集」が慢性的に不足していると書かれており、その3つは独占業務を侵さずにAIで効率化できる。

私は士業の先生方と顧問としてお付き合いすることも多い。優秀な先生ほど「自分でやった方が早い」と仕事を抱え込む。でも本当にそうだろうか。顧客対応メールの下書き、書類のチェックリスト作成、ホームページ用のFAQ整備——これは全部AIが得意とする仕事だ。行政書士という高度な専門職の「周辺業務」を丸ごとAIに渡せば、先生が本来の業務に集中できる時間が大幅に増える。


行政書士事務所の現場と、求人票が物語る人手不足

行政書士の独占業務は「官公署に提出する書類・権利義務関係書類・事実証明書類の作成と申請」だ。在留資格申請、建設業許可、農地転用、会社設立、相続手続き、遺言書作成など、その業務範囲は広大だ。

問題は、これらの高度専門業務の「前後」に大量の補助作業が発生することだ。求人サイトで「行政書士事務所 事務スタッフ」と検索すると、よく見る募集文言の傾向がある。

  • 「書類作成の補助・入力作業ができる方(資格不要)」
  • 「お客様からの電話・メール対応・来客応対」
  • 「官公署の情報収集・申請状況の確認・追跡管理」
  • 「法改正・申請様式変更のリサーチと情報共有」
  • 「Wordでの書類整形・Excel管理・書類のスキャン・整理」

「資格不要の事務作業」を募集しているが、実際には業務の流れを理解した上でこなす必要があり、未経験者がすぐ戦力になりにくい——これが行政書士事務所の採用が難しい理由のひとつだ。


求人から読み取れる3つの困りごと

困りごと①:書類作成の「下書き・整形・チェック」に時間がかかりすぎる

行政書士が作成する書類は、フォーマットが決まっているものが多い。しかし、顧客ごとに異なる情報を正しく当てはめ、添付書類リストを整え、申請書類一式を揃える作業には相当な時間がかかる。この「組み立て作業」の部分は、専門的な判断よりも「正確に転記して整える」要素が大きく、AIが補助できる余地が大きい。

困りごと②:顧客への状況説明・問い合わせ対応のメール・文書作成

「申請書が受理されました」「追加書類が必要です」「審査に3週間かかります」——こうした顧客への状況説明のメールや文書を、行政書士本人が毎回作っていると時間が溶けていく。また、ホームページや電話への「在留資格の申請にはどんな書類が必要ですか?」「建設業許可の費用はいくらですか?」といった問い合わせ対応も時間を取られる。

困りごと③:法改正・様式変更・最新情報のキャッチアップが追いつかない

行政書士が扱う申請書類の様式は、法改正のたびに変わる。国土交通省・法務省・農林水産省など複数省庁の情報を常に追いかける必要があるが、これを日常業務の合間に一人でこなすのは現実的に難しい。求人票の「情報収集・リサーチ業務」はここへのSOSだ。


その困りごと、AIならこうなる

Before → After ①:申請書類一式の確認チェックリスト自動生成

Before: 申請のたびに「確認漏れがないか不安」な状態でチェック。経験で補っているが、新しい種類の申請のたびに一から確認が必要。

After: 申請種類をAIに伝えるだけで、添付書類・確認事項のチェックリストが即座に出力。スタッフ教育にも使える。

【プロンプト例①:申請書類チェックリストの作成】
以下の行政書士申請業務について、必要書類と確認事項の
チェックリストを作成してください。
※最終的な内容は担当行政書士が確認・修正します。

【申請種類】建設業許可申請(新規・一般建設業・知事許可)
【申請者】法人(株式会社)

出力形式:
■ 申請者から取得する書類(□チェックボックス形式)
■ 事務所で用意・作成する書類
■ 申請前の最終確認事項(よくあるミスを含む)
■ 添付書類の注意事項(有効期限・原本・写しの区別など)

Before → After ②:顧客向け状況説明メールの下書き自動生成

Before: 顧客への進捗報告メールを毎回ゼロから作成。丁寧な言葉遣いを考えながら書くと、1通に15〜20分かかることも。

After: 状況をAIに伝えれば丁寧な日本語のメール下書きが即座に完成。確認・送信だけに集中できる。

【プロンプト例②:顧客向け進捗報告メールの下書き】
行政書士事務所として顧客に送る、申請進捗の報告メールを
作成してください。丁寧かつ分かりやすい文体で。

【状況】
・依頼内容:在留資格変更許可申請(技術・人文知識・国際業務)
・依頼者:○○株式会社 人事担当者様
・状況:申請書類一式を入国管理局に提出完了(提出日:○月○日)
・見込み:審査に通常2〜3ヶ月かかる旨を伝える
・次のアクション:審査状況は随時確認し、連絡する旨を伝える
・注意点:許可証の受取には来所が必要な場合がある旨を添える

Before → After ③:ホームページ掲載用FAQの自動生成

Before: 「どんな質問がよく来るか」は把握しているが、FAQ文章をまとめる時間が取れない。問い合わせのたびに同じ説明を繰り返している。

After: よく来る問い合わせをリストアップしてAIに渡すだけで、ホームページに載せられるFAQが完成。

【プロンプト例③:行政書士事務所ホームページ用FAQ作成】
行政書士事務所のホームページに掲載するFAQを作成してください。
一般の方にも分かりやすい言葉で、専門用語は平易に説明してください。

【よく来る問い合わせ(箇条書き)】
・費用はいくらかかるか
・どのくらい時間がかかるか
・必要な書類は何か
・自分でやることとの違いは何か
・申請が通らなかった場合はどうなるか

対象:建設業許可申請サービスのFAQ
各Q&Aは、Q:1文・A:3〜5文でまとめてください。

導入ステップと費用感

ステップ1:よく使う定型メールをAIテンプレート化する(今週から)
まず「申請受理のご連絡」「追加書類のお願い」「許可取得のご報告」の3パターンのメールテンプレートをAIで作成する。月額数千円のChatGPTからすぐ始められる。

ステップ2:申請種類ごとのチェックリストを整備する(1〜2ヶ月)
主要な申請業務のチェックリストをAIで作り、スタッフ研修資料として活用する。新人スタッフの戦力化期間が大幅に短縮される。

ステップ3:補助金活用でホームページ改善・CRM導入を検討する
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)を活用し、問い合わせ対応の自動化やCRMツール導入を検討する段階に進む。


よくある質問

Q. AIが作った書類の下書きを使うのは問題ないのか?
A. 下書き・補助として活用し、行政書士本人が内容を確認・修正した上で最終的な書類とする限り問題ない。AIはあくまで「補助ツール」であり、書類の正確性・適法性の最終判断は資格者が行う。「ドラフトを作るのはAI、判断するのは先生」という役割分担が鍵だ。

Q. 顧客の個人情報をAIに入力してよいのか?
A. 個人情報の取り扱いには注意が必要だ。氏名・住所・在留カード番号などの具体的な個人情報はプロンプトに入力せず、「○○様」「A社」のような仮名を使って文章の枠組みだけを作成し、最後に実際の情報を人間が差し込む方法が安全だ。

Q. 法改正のキャッチアップにAIは使えるのか?
A. AIは学習データの時点情報しか持っていないため、最新の法改正情報をリアルタイムで教えてくれるわけではない。ただし「○○申請の様式変更があった場合のチェックポイント一覧を作ってほしい」のような形で、確認フレームワークを作る用途では十分に役立つ。最新情報は公式サイトで確認する習慣との併用が前提だ。


山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

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