司法書士事務所の求人票には「登記申請書類の補助・書類整理・顧客への説明文書作成」が慢性的に不足していると書かれており、その周辺業務はAIで今すぐ効率化できる。
私は宅建士の資格を持っており、不動産取引の場面で司法書士の先生と一緒に仕事をする機会が多い。決済の場で何十枚もの書類を手際よく整えながら顧客に説明する司法書士の姿を間近で見てきた。あの仕事の「専門性の高い部分」は当然AIに任せられない。しかし、書類整形・確認チェック・顧客への説明文書作成という「段取りの部分」はAIが大幅に助けてくれる。
司法書士事務所の現場と、求人票が物語る人手不足
司法書士の主な独占業務は「不動産登記・商業法人登記の申請書類作成と提出代理」「裁判所への書類作成」だ。相続登記・抵当権設定・会社設立・役員変更登記など、不動産取引や会社経営のあらゆる場面で必要とされる。
求人サイトで「司法書士事務所 スタッフ」と検索すると、こうした募集文言の傾向がある。
- 「登記申請書類の補助・書類確認・ファイリング管理」
- 「添付書類の収集・チェック・クライアントへの依頼」
- 「不動産取引決済の段取り補助・スケジュール管理」
- 「クライアントへの進捗報告・問い合わせ対応(電話・メール)」
- 「登記識別情報・権利証の管理と交付手続き補助」
「補助・確認・管理・報告」という言葉が並ぶ。専門的判断の前後にある定型・補助業務が人手を要求している。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:添付書類の収集・チェックリスト管理が煩雑
不動産登記には、登記原因証明情報・売買契約書・住民票・印鑑証明書・登記識別情報など多数の書類が必要で、案件の種類ごとに必要書類が異なる。「何が揃っていて、何が足りないか」を案件ごとに管理するチェック業務は量が多く、ミスが許されない。
困りごと②:相続登記・会社変更登記の案内文書・説明文書の作成
「相続登記の義務化に伴い、○○の場合は期限内に手続きが必要です」「役員の任期満了に伴い、変更登記の手続きが必要です」——こうしたクライアントへの案内・説明文書を丁寧に作成することは大切な仕事だが、時間がかかる。法律の言葉を平易に言い換えながら説明するのは、専門家にとっても案外手間のかかる作業だ。
困りごと③:相続案件の「次の一手」説明が追いつかない
相続登記を依頼してきたクライアントは、登記以外にも相続税・遺産分割・預貯金の解約など多くの手続きが必要だ。司法書士の業務範囲外のことも「どこに相談すればいいですか?」と聞かれる。「それは税理士さんに」「それは銀行の手続きで」という案内を丁寧な文書でまとめる仕事が積み残されていく。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After ①:登記種類別の書類収集チェックリスト自動生成
Before: 案件ごとに必要書類リストを手で作成または記憶に頼る。漏れが発生すると決済が延期になるリスクがある。
After: 登記の種類と当事者構成をAIに伝えると、チェックリストが即座に生成。確認・修正だけで済む。
【プロンプト例①:不動産登記書類収集チェックリストの生成】
以下の不動産登記申請について、収集が必要な書類の
チェックリストを作成してください。
※最終確認は担当司法書士が行います。
【案件情報】
・登記種類:所有権移転登記(売買)
・売主:個人(登記識別情報あり)
・買主:個人(住宅ローンあり・抵当権設定登記も同時申請)
・登記原因:売買(決済日:○月○日予定)
出力フォーマット:
■ 売主から収集するもの(□チェックボックス)
■ 買主から収集するもの
■ 金融機関から収集するもの
■ 事務所で取得・作成するもの
■ 決済当日の確認事項(よくある確認漏れを含む)
Before → After ②:相続登記義務化に関するクライアント案内文の作成
Before: 相続登記義務化が始まってから、既存クライアントへの案内状を作成しなければならないが、法律の言葉を平易に言い換えながら書く作業に時間がかかる。
After: 対象者の条件と事務所の連絡先をAIに伝えると、送付用の案内状が即座に完成。
【プロンプト例②:相続登記義務化のクライアント案内文作成】
相続登記義務化に関して、司法書士事務所からクライアント向けに
送るDM(はがき・A4一枚)の文面を作成してください。
【前提条件】
・相続登記は相続を知った日から3年以内に申請が義務化
・正当な理由なく期限内に登記しない場合は過料の可能性
・対象:過去に相続が発生したが登記未了の方
【文面の要件】
・読み手が不安にならず、「相談してみよう」と思える温かいトーン
・法律の難しい言葉を最小限に
・「まずは無料相談を」というCTAで締める
・事務所名・電話番号・QRコードの挿入位置を[事務所情報]と明記
・文字数:はがき面400字程度・A4版600字程度の2パターン
Before → After ③:相続案件の「手続き全体ロードマップ」説明資料の自動生成
Before: 相続案件で「登記以外に何が必要ですか?」と聞かれるたびに口頭で説明。説明が漏れたり、毎回同じことを繰り返している。
After: 相続の基本情報をAIに伝えると、クライアントに渡せる手続きロードマップの下書きが完成。
【プロンプト例③:相続手続きロードマップ説明資料の作成】
相続が発生したクライアントに渡す「相続手続き全体ロードマップ」
の説明資料(A4一枚・図表あり)の構成案とテキスト内容を
作成してください。
【前提】
・被相続人:父(不動産・預貯金・有価証券あり)
・相続人:配偶者と子ども2人
・遺言書:なし
構成に含めること:
1. まず何から手をつけるか(死亡後7日以内〜3ヶ月以内)
2. 遺産分割協議の進め方の概要
3. 不動産相続登記の手続き(司法書士の担当)
4. 預貯金・有価証券の解約・名義変更
5. 相続税申告(税理士への相談が必要な旨を明記)
6. 各専門家への相談先の目安
※専門家へのアドバイスはあくまで参考情報として記載してください。
導入ステップと費用感
ステップ1:案件種類別チェックリストをAIで整備する(今週から)
主要な登記種類(所有権移転・相続登記・抵当権設定・商業登記)のチェックリストをAIで作成し、事務所のテンプレートとして保存する。スタッフへの引継ぎにも活用できる。
ステップ2:クライアント向け案内文書のテンプレートを作る(1ヶ月)
相続登記義務化・遺言書作成のおすすめ・会社の役員任期管理など、定期的に送付する案内文書をAIでテンプレート化する。事務所のDM発送にかかる準備時間が大幅に削減できる。
ステップ3:補助金活用で電子申請・ペーパーレス化を本格推進
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)を活用して、登記オンライン申請の完全移行や案件管理システムのAI化を検討する。
よくある質問
Q. 司法書士の業務はAIに何ができて、何ができないのか?
A. AIが得意なのは「書類の枠組み作成・チェックリスト整備・説明文書の下書き・クライアントへの案内文作成」だ。不動産の権利関係の確認・登記申請書の法的正確性の担保・クライアントへの専門的アドバイスは必ず担当司法書士が行う必要がある。AIは「段取りを整えるアシスタント」であり、「判断する専門家」にはなれない。
Q. 登記情報や不動産情報をAIに入力してよいのか?
A. 物件の住所・面積・評価額などの不動産情報、依頼人の氏名・住所などの個人情報はAIに入力しないことを原則としてほしい。書類の「構成・文章の枠組み・チェックリスト」を作る段階では仮名を使い、具体的な情報は最後に人間が当てはめる方法が安全だ。
Q. 決済当日のような時間的プレッシャーがある場面でもAIは使えるか?
A. 決済当日にリアルタイムでAIを使うのは難しい。AIの活用は「準備段階」に集中させることが正解だ。書類収集チェックリストの事前確認、顧客への事前説明資料の作成、決済後のお礼状・完了報告の文章作成——これらは事前に時間をかけて行うAI活用のサイクルに乗せやすい。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

