社労士事務所の求人票には「給与計算補助・社会保険申請入力・顧問先への説明文書作成」が慢性的に不足していると書かれており、その3つはAIで今すぐ効率化できる。
社会保険労務士という仕事は、企業の「人」に関するあらゆる問題を扱う。労働法・社会保険法の専門家として顧問先を支えるわけだが、その実務の現場を見ると「先生の知識を活かす仕事」と「書類を整えて提出する仕事」が混在している。前者は先生でなければできないが、後者の相当部分はAIに渡せる。私が宿泊業で体験したのも同じことだ——「私でなければできない仕事」に集中できるようになってから、売上が変わった。
社労士事務所の現場と、求人票が物語る人手不足
社労士の主な業務は「労働・社会保険関係諸法令に基づく書類の作成・申請」「帳簿書類の作成(就業規則・賃金台帳等)」「労務管理・社会保険に関するコンサルティング」だ。顧問先企業の給与計算代行・社会保険の手続き代行を主力とする事務所も多い。
求人サイトで「社労士事務所 スタッフ」と検索すると、こうした募集文言の傾向がある。
- 「給与計算業務の補助・データ入力(ソフト操作を習得いただきます)」
- 「社会保険・雇用保険の申請補助・書類管理」
- 「顧問先からの問い合わせ対応・メール・電話応答」
- 「就業規則や各種規程の修正・改訂補助」
- 「助成金申請書類の作成補助・要件確認」
「補助」「入力」という言葉が並ぶ。社労士本人の専門的判断が必要な仕事の「前後」に、大量の定型作業が存在している構造だ。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:毎月の給与計算・社保申請の入力業務が繁忙期に集中する
顧問先が多い事務所では、月末月初に給与計算関連の業務が集中する。ソフトへのデータ入力・確認・修正・提出という一連の流れを、複数の顧問先分同時並行でこなさなければならない。この繁忙期に「入力スタッフ」の不足が直撃する。
困りごと②:就業規則・社内規程の改訂案文の作成に時間がかかる
法改正があるたびに就業規則の見直しが必要になる。骨格は変わらずとも、条文の追記・修正・整合性チェックという作業に相当な時間が取られる。「大枠は先生が決めるが、文章を整えるのに時間がかかる」という問題が多くの事務所で発生している。
困りごと③:顧問先への説明資料・通知文の作成が追いつかない
「今月から雇用保険料率が変わります」「育児介護休業法の改正で御社の就業規則に変更が必要です」——こうした顧問先向けの説明文書・通知文をわかりやすく作成することは、専門家としての重要な仕事だが、文章作成に時間がかかる。求人票の「顧問先対応補助」の多くがここだ。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After ①:就業規則条文の改訂案文の下書き生成
Before: 法改正のたびに条文を書き直す。前回のバージョンとの差分確認・文体統一・整合性チェックに時間がかかる。
After: 改正内容をAIに伝えると条文の下書きが即座に生成。先生が確認・修正するだけでよい状態になる。
【プロンプト例①:就業規則条文改訂案の下書き】
以下の法改正内容をもとに、就業規則の「育児休業・介護休業」
関連条文の改訂案を作成してください。
※最終的な内容は担当社会保険労務士が確認・修正します。
【改正内容(想定)】
・産後パパ育休制度の対象拡大
・育児休業の分割取得が2回まで可能になった
・有期雇用労働者の育児休業取得要件の緩和
現行条文のスタイルに合わせて、追加・変更すべき条文案を
「第○条(育児休業)」「第○条(産後パパ育休)」の形式で
作成してください。根拠法令も末尾に記載すること。
Before → After ②:顧問先向け法改正通知文の自動生成
Before: 法改正のたびに複数の顧問先へ送る通知文を作成。専門用語を平易に言い換えながら書くのに時間がかかる。
After: 改正内容と顧問先の業種・規模をAIに伝えると、わかりやすい通知文が即座に完成。
【プロンプト例②:顧問先向け法改正通知文の作成】
社労士事務所から顧問先企業の総務・経理担当者宛に送る
法改正のお知らせ文書を作成してください。
【通知内容】
・対象改正:雇用保険料率の変更(仮定)
・変更時期:来月○日から
・顧問先への影響:給与から控除する保険料率の変更が必要
・必要なアクション:給与計算ソフトの設定変更・確認
文体:丁寧だが読みやすく・専門用語は最小限に
分量:A4用紙1枚以内(800字程度)
構成:「お知らせ」見出し+概要→影響→対応方法→問い合わせ先
Before → After ③:採用・入社手続きチェックリストの自動生成
Before: 顧問先から「新しいスタッフが入ります」と連絡が来るたびに、必要な手続きをゼロから説明。同じことを何度も繰り返している。
After: 雇用形態と入社日をAIに伝えると、手続きチェックリストと顧問先への案内文が自動生成。
【プロンプト例③:入社手続きチェックリスト+顧問先案内文】
以下の条件で、社労士事務所が顧問先に送る
「入社手続き案内」と「必要書類チェックリスト」を作成してください。
【条件】
・雇用形態:正社員(週5日・フルタイム)
・入社日:来月1日
・社会保険:健康保険・厚生年金・雇用保険 全て加入
・マイナンバー:収集が必要
チェックリスト:□形式で、入社日までに準備するものを時系列で
案内文:顧問先の人事担当者向け・丁寧な文体・A4半枚程度
導入ステップと費用感
ステップ1:顧問先向け通知文テンプレートをAIで整備する(今月から)
まず「よく送る通知文」5種類をAIでテンプレート化する。法改正通知・手続きご案内・料率変更のお知らせ——これだけで月数時間の削減になる。
ステップ2:就業規則・規程集のAI補助フローを確立する(1〜2ヶ月)
法改正のたびにAIで条文案を生成→先生が確認・修正→顧問先に提案、という流れを標準化する。スタッフの補助業務としてAI活用を組み込める。
ステップ3:補助金活用で業務管理システムにAIを組み込む
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)を活用して、給与計算ソフトやCRMとのAI連携を本格導入する段階に進める。
よくある質問
Q. AIが作った就業規則の条文案は法的に有効か?
A. AIの生成物はあくまで「下書き」であり、法的有効性の確認は担当の社労士が行う必要がある。AIを「文章を整える補助者」として使い、専門的判断は必ず資格者が行うという分担が前提だ。「下書きはAI、確認は先生」という明確な役割分担があれば、効率化と品質確保を両立できる。
Q. 顧問先の給与データや従業員情報をAIに入力してよいのか?
A. 従業員の個人情報・給与金額などの具体的な情報はAIに入力しないことが原則だ。書類の「枠組み・文章・チェックリスト」を作る用途に限定し、具体的な数値・氏名は後から人間が当てはめる使い方が安全だ。プロンプト例に示したように「○○様」「A社」という仮名を使う習慣をつけることをお勧めする。
Q. スタッフへのAI導入研修はどうすればよいか?
A. 最初はプロンプトテンプレートを3〜5種類作り、「これをコピーして使ってください」と渡すだけでいい。難しい設定や操作は一切不要だ。1週間試して「どんな使い方が良かったか」を共有する場を設けると、事務所全体でノウハウが蓄積される。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。

