海上コンテナドレージの人手不足は「港・荷主・船会社の三者間に挟まれた複雑なスケジュール調整と書類処理が一人の担当者に集中している」ことが本質であり、AIはその調整・書類業務の大部分を代替できる。
海上コンテナドレージという言葉を初めて聞く方も多いかもしれないが、輸出入の現場では非常に重要な役割を担っている。港湾ターミナルからコンテナを引き取り、荷主の工場・倉庫まで届ける——その「最後の1マイル」を担う輸送がドレージだ。私はホテルを運営しながら、海外からのアメニティ調達でドレージ業者にお世話になっている。そこで実感するのが「この業種の担当者の段取り力の高さ」だ。裏を返せば、それだけ人依存の業務が多いということでもある。
海上コンテナドレージの現場と、求人票が物語る人手不足
ドレージ業者の主な仕事は、港湾ターミナルでのコンテナ引き取り(本船到着後のデバンニング前後)、内陸輸送、デポへの返却という一連のオペレーションだ。輸入案件では通関スケジュールとの連動が必要で、ターミナルの搬出予約・フリータイム(無料保管期間)の管理・荷主への到着通知など、複数の関係者との連絡が不可欠だ。
求人サイトで「ドレージ 事務 求人」「コンテナ輸送 事務 求人」と検索すると、次のような文言が並ぶ。
- 「港湾ターミナルとの搬出予約・スケジュール管理をお任せします」
- 「荷主様・通関業者・船会社との連絡調整が主な業務です」
- 「B/L・D/O・搬出証明書などの書類管理も含みます」
- 「英語でのメール対応が発生する場合があります(基礎英語力あれば可)」
- 「未経験歓迎だが、物流業界の用語・慣習の習得に時間がかかります」
「未経験歓迎でも習得に時間がかかる」という記載が象徴的だ。B/L(船荷証券)・D/O(デリバリーオーダー)・フリータイム・CY(コンテナヤード)・CFS(コンテナフレートステーション)——こうした専門用語と港湾の慣習を覚えるだけで数ヶ月かかる。この「知識の習得コスト」が採用難につながっている。
求人から読み取れる3つの困りごと
困りごと①:港湾ターミナルのスケジュールと荷主の着荷希望が合わない「板挟み調整」が毎日発生する
本船が予定通り入港しない、ターミナルが混雑して搬出予約が取れない、荷主は「今日中に欲しい」という要求——この三つが重なると、担当者は電話とメールを何往復もして調整に明け暮れる。1件の案件で1〜2時間を費やすことも珍しくない。
困りごと②:フリータイムの管理ミスがデマレージ(超過保管料)という直接的な損失になる
コンテナを港で長く保管するとデマレージ(超過保管料)が発生し、1日あたり数万円単位の費用になる。フリータイムの期限管理を担当者がExcelで手動で追うのが現場の実態で、ミスが起きると会社の損失に直結する。
困りごと③:英語の書類・メール対応がボトルネックになる
船会社・海外エージェントとのやりとりで英語が必要な場面が発生するが、社内に英語が得意なスタッフが少なく、担当者一人に英語業務が集中する。英語メールの確認・返信が遅れると、輸入スケジュール全体が遅延する。
その困りごと、AIならこうなる
Before → After:フリータイム管理の自動アラート
Before:案件ごとのフリータイム期限をExcelで手動管理。見落としがあり、デマレージを払ったことが過去にある。
After:案件情報をGoogleスプレッドシートに入力 → フリータイム期限を自動計算 → 期限3日前にメール通知。ChatGPTで「フリータイム管理テンプレート」を作成し、スプレッドシートに展開する。
【プロンプト例①:コンテナ案件管理テンプレートの作成】
以下の情報をもとに、コンテナドレージ事業者が使う「案件管理・フリータイムアラートテンプレート」をGoogleスプレッドシート用に作成してください。
管理したい情報:
・案件番号 / コンテナ番号 / B/L番号
・本船入港予定日 / 実入港日
・フリータイム日数(例:5日)/ フリータイム期限日(自動計算)
・搬出予約日時 / 搬出完了日
・荷主名 / 向け先住所
・デマレージ発生有無 / 金額
出力形式:
- スプレッドシートの列見出し一覧
- フリータイム期限の自動計算式(=入港日+フリータイム日数)
- 期限3日前をハイライトする条件付き書式の設定方法も説明すること
Before → After:英語メール対応
Before:船会社から英語でコンテナの搬出スケジュール変更の連絡が来るが、英語が苦手な担当者が読解に30分、返信文に1時間かかる。
After:受信した英語メールをChatGPTに貼り付けるだけで日本語訳と要約が10秒で完成。返信文もChatGPTで日本語で指示を出せば英語で生成される。英語スキル不問で対応できるようになる。
【プロンプト例②:英語メールの翻訳・返信文生成】
以下のタスクを順番に実行してください。
【タスク1:翻訳】
以下の英語メールを日本語に翻訳し、要点を3行で箇条書きにしてください。
英語メール:
"Dear [Company Name],
Please be advised that the vessel [VESSEL NAME] has been delayed due to port congestion at the origin port. The revised ETA at [Port Name] is now June 18th, 2024 (previously June 15th). Please adjust your pickup appointment accordingly. We apologize for any inconvenience caused."
【タスク2:返信文作成】
上記メールに対して、以下の内容を含む英語返信文を作成してください。
・遅延の了承
・搬出予約を6月19日に変更した旨
・荷主への連絡調整が必要なため、最終確認後に改めて連絡する旨
・丁寧なビジネス英語で
Before → After:荷主への到着通知・スケジュール連絡
Before:本船入港ごとに荷主へ「コンテナが到着しました、搬出予定は◯日です」という連絡メールを一から書く。案件数が多い日は連絡だけで2時間かかる。
After:案件情報(荷主名・コンテナ番号・入港日・搬出予定日)をChatGPTに入力するだけで、荷主向けの到着通知メールが全案件分まとめて生成される。確認して送信するだけ。
導入ステップと費用感
Step 1(月1,000〜3,000円):ChatGPT Plusを使い、英語メール対応と荷主への通知文作成から始める。担当者の英語対応の心理的ハードルが下がるだけで、業務スピードが大幅に改善する。
Step 2(月5,000〜1万円):Googleスプレッドシートでフリータイム管理テンプレートを整備し、デマレージ防止の仕組みを構築する。初回のデマレージ節約額でコストを回収できる。
Step 3(月1万〜5万円):クラウド型輸送管理システム(TMS)とAI分析を連携し、案件全体のリードタイム分析・遅延パターンの把握・顧客別収益性の見える化を実現する。
デジタル化・AI導入補助金(最大450万円・補助率1/2〜2/3、最新の公募要領で要確認)は国際物流・港湾輸送事業者にも活用できる可能性がある。輸送管理システムの導入・業務デジタル化と合わせて申請を検討してほしい。
よくある質問
Q. 港湾スケジュールは毎日変わるのに、AIで管理できますか?
スケジュール自体の管理は専用ツールの方が向いている。一方でChatGPTは「変更が発生したときの荷主への説明文作成」「変更を英語で船会社に連絡する返信文」という「書く仕事」で大いに役立つ。
Q. B/LやD/Oという専門書類の処理にAIは使えますか?
書類の内容を読み解いて要点を整理したり、書類に基づく連絡文を作成したりすることはAIが得意とするところだ。ただし最終的な書類の正確性の確認は必ず人間が行うこと。
Q. この業種でAI内製化を始めるのに、特別なITスキルは必要ですか?
不要だ。ChatGPTはブラウザで動き、日本語で話しかけるだけで使える。英語メールの翻訳から始めれば、1日目から時間短縮の実感が得られる。「まず英語メールをChatGPTに翻訳させる」——これだけでいい。
山崎恭平/AI内製化総合研究所 所長
株式会社インバウンドホールディングス専務取締役。営業と交渉の世界で成果を上げてきた一方、パソコン作業は横で支えてくれる事務方に頼りきりだった。AIの登場で、一番苦手だったパソコン作業が「自分でできる」に変わり、気づけば中小企業から上場企業まで10社以上のAI顧問を務めるように。スプレッドシートの関数すら分からなかった私でもできた——だから、誰でもできる。AIの学校や顧問にお金を払い続けるのは、本質的にもったいない。初期は人を頼ってもいい。でも最後は自分たちで内製してほしい。そんな思いで、このメディアを作った。
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